血脈(上) (文春文庫)それは大正四年秋、当代随一の人気作家、佐藤紅緑の狂恋から始まった―。生きようとする情熱ゆえに欲望と情念に引きずられる一族、佐藤家の人びとの凄絶な生の姿。第四十八回菊池寛賞受賞。
圧巻。
そして佐藤家の人々の破天荒な生き方に驚き。
昭和初期に活躍した作家、佐藤紅緑とその息子サトウハチローのふたりは、豪快で放埒で女好き、という感想しか出てこなかった。本当にそればっかり(笑)
そして妹の佐藤愛子が書かれた本ですから、内容もけっこう辛辣。肉親の実態(あるいは恥部)をこれでもか、と淡々と書かれています。
昭和時代、テレビ番組でお見かけしていたのでお名前は知ってましたが、サトウハチローの妹さんだとは数年前まで知りませんでした。
サトウハチローといえば、童謡で有名だものだから、その人なりも宮沢賢治のような御方を想像していたものの、これを読んだらガラガラと崩壊します。
なんか、良いところがないというか、こんなやつ(人と呼べないぐらいクズなエピソード満載)が家族や親戚じゃなくてよかった! とほっとするぐらいです(笑)
その父である紅緑はまだ明治時代の志士の生き残りのような人だったから、同じクズでも女子供を守ろうとするだけの気概があります。わがままでもまだ許せる。
しかしその息子たちはみんなそろいに揃って、当時の不良になってしまい、それぞれの最期も長男ハチロー以外は、壮絶です。自死に、戦死に、被爆死。時代だったから仕方ないとはいえ、みな若いのに……。
と思いつつも、後妻のシナは彼らが早死したことで、骨肉の相続争いがなくてよかったともいえる、のが佐藤家の荒ぶる血筋のすごさ。
みんなお金への執着がすごくて、そして散財も半端ないエピソードばかりです。結婚しようが、愛人が当然のようにいて、それで父親の紅緑にお金を悪びることもなくせびるという……。
佐藤家で出世したのが、紅緑とハチローと作者の愛子。
女たちは結婚してなんとか落ち着くも、大勢の男たちはほとんどが堕落して女のヒモか、ニートになってしまいます。息子、孫、ひ孫まで。それでも生きていけたのが昭和らしいというか、今では考えられないような生活ぶりに目が離せません。
あと愛子の姉の早苗の老後がこれまたびっくり。まさしく荒ぶる佐藤家の生き方。
いくら早期教育しても、結局、荒ぶるのですから、これは血筋なのだな、と思わせる読後感でした。
描写はフィクションですが、話と人物は實在です。中途半端な綺麗事なんてない、佐藤家の人々の生きる姿に圧倒された読後感でした。
本編を読了後、エッセイを読めば、創作の裏話や一家の写真で感無量。
佐藤家の人びと 「血脈」と私 (文春文庫)