2016年03月20日

ボヴァリー夫人

B00DOT5036ボヴァリー夫人
G・フローベール 生島遼一
新潮社 1965-12-17

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田舎医者ボヴァリーの美しい妻エマが、凡庸な夫との単調な生活に死ぬほど退屈し、生れつきの恋を恋する空想癖から、情熱にかられて虚栄と不倫を重ね、ついに身を滅ぼすにいたる悲劇。厳正な客観描写をもって分析表現し、リアリズム文学の旗印となった名作である。本書が風俗壊乱のかどで起訴され、法廷に立った作者が「ボヴァリー夫人は私だ」と言ったのは、あまりにも有名である。

悲劇というより自業自得な内容でした。
なんていうんだろうか。ボヴァリー夫人のような女性、今でもたくさんいるよなーと思ったり。恋に恋して、ずっと乙女のような恋に憧れて、かわいいからまともな夫と結婚できたにも関わらず、物足りなくてついに不倫……。

ボヴァリー夫人のエマみたいにちやほやされたことないし、あまりロマンスに興味ないタイプなんで、共感できるところは少ない。が、夢想して虚しい現実を紛らわす気持はわかるわー、と(^_^;)
あるていど裕福な夫人らしい当時の悩みだとも思いました。当時のような貧しい庶民だったら、生きることに精一杯で夢想するひまなんてなさそうだ。

この作品でよかったのが、エマの周囲の男性たち。
初めはみな、エマかわいい、美しい、なんて女性らしい、結婚して!
といわんばかりにアプローチするのに、成就して今度はエマが夢中になると、だんだん冷めてしまい、ついに残酷に捨ててしまうという。
で、最終的にずっと愛していたのは、凡庸でつまらない夫だけという。もう少し気が利くタイプだったら、妻が不倫なんかしなかったんだろうなーとも。
冷酷な物売りといい、リアリズムな男性陣が物語を面白くしていました。
あと描写が細かくて美しいのも読みどころ。当時のフランスの雰囲気がたっぷり。
posted by 夏 at 19:32 | TrackBack(0) | 西洋史(古典・小説) | 更新情報をチェックする

2016年03月13日

死刑執行人サンソン――国王ルイ十六世の首を刎ねた男

B015C511L4死刑執行人サンソン――国王ルイ十六世の首を刎ねた男 (集英社新書)
安達正勝
集英社 2003-12-22

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敬虔なカトリック教徒であり、国王を崇敬し、王妃を敬愛していたシャルル‐アンリ・サンソン。彼は、代々にわたってパリの死刑執行人を務めたサンソン家四代目の当主であった。そして、サンソンが歴史に名を残すことになったのは、他ならぬその国王と王妃を処刑したことによってだった。本書は、差別と闘いながらも、処刑において人道的配慮を心がけ、死刑の是非を自問しつつ、フランス革命という世界史的激動の時代を生きた男の数奇な生涯を描くものであり、当時の処刑の実際からギロチンの発明まで、驚くべきエピソードの連続は、まさにフランス革命の裏面史といえる。

これはすごかった、そして面白かった。
まず処刑人の生涯をテーマに書いたものが珍しい。そしてかのフランス革命時、何千人もの人を処刑せざるを得なかったサンソンの苦悩が書かれています。

フランスにおける処刑人の地位は最下級。人が嫌がる仕事=卑しいという価値観が当時そのまま。他の国はどうだかわかりませんが(まずそういう資料本事態少ないと思う)、最底辺なのにどうしても必要な職業だから、王家から特権を認められるのがすごく矛盾しているという。

処刑だけでなく医業もあったので本を読む必要がありました。教養が必要だったのもそのため。でもやはり当時らしく、処刑人の子どもは差別されてしまい、寄宿学校を追い出されたサンソンが気の毒すぎ……。

そんなこんなの残酷と人道と苦悩が交差するエピソードがたくさんあります。
そのなかで印象的だったのが、ギロチンはもともと人道的配慮から生まれた処刑道具だということ。
苦しまずに死なせるよう、瞬時に首が切れる道具は現在の感覚では残酷そのものですが、当時の価値観にしてもれば、とても画期的。それがかえって災いとなり、革命後の粛清の嵐では、次々と冤罪のひとびとまでがスピード処刑されてしまいます。
サンソンはここでもっとも苦悩するのですが、やはり執行しないと、国の秩序が保たれず、サンソン一族も殺されてしまいかねなこともあり、淡々と処刑する様子が書かれています。

ルイ16世の人となりも書かれており、温厚で賢明な王だったけど、時代がちょうど革命のころで運が悪かったのだとありました。これ、書物によってはバラバラでして、愚鈍だったから逃亡に失敗して、処刑される羽目に陥ったのだと書かれているものもあります。
どちらにしても、死刑制度そのものの是非を問いかける内容になっていました。
(恐怖政治を生み出す可能性がある処刑制度はよくないけど、まったくないとリスクを恐れず犯罪をおかす者がいそうで、なかなか難しい問題だと思います)
ラベル:★★★
posted by 夏 at 14:06 | TrackBack(0) | 西洋史(雑学・専門) | 更新情報をチェックする

2016年03月05日

自由と規律-イギリスの学校生活

B0183IMPDU自由と規律-イギリスの学校生活 (岩波新書)
池田 潔
岩波書店 1949-11-05

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ケンブリッジ、オックスフォードの両大学は、英国型紳士修業と結びついて世界的に有名だが、あまり知られていないその前過程のパブリック・スクールこそ、イギリス人の性格形成に基本的な重要性をもっている。若き日をそこに学んだ著者は、自由の精神が厳格な規律の中で見事に育くまれてゆく教育システムを、体験を通して興味深く描く。

1920年代、英国のパブリック・スクールで学んだ著者の体験記。
おおー、新書でこういうのがあったの知らなかった。たまたま見つけたときは、嬉しくてすぐ購入して読みましたw
いわゆるパブリック・スクールとはイギリス人にとって何なのか、という前半の解説と、実際、著者が体験した寄宿生活を簡単に記した内容。
19世紀なかばごろを記した別の新書(英国パブリック・スクール物語)より、半世紀ほど時代が下った20世紀だけあって、生徒たちは洗練されていました。
暴力やいじめがほとんどなかった、というのがすごい。未成年が集まると、どうしてもクラス内カーストみたいなのができるのが普通だから。
それは監督生の存在が大きくて、彼らが仲裁をし、弱い者の味方をするからだそうです。

でも、内向的で芸術肌の生徒は、なかなか馴染めず苦労したそう。いわゆる、体育会系が有利になっていて、スポーツの花形選手は尊敬されるも、団体行動とスポーツが苦手な生徒は居場所がなかったそうです。音楽はまだしも、絵画や文学に傾倒することは軽蔑の対象でした。
でもいじめがなかったってあるから、陰湿な仲間はずれとかだったのでしょうか?そのあたりの詳細がなかったので、想像になってしまいますが……。

大学へ進学すると、がらりと環境が変わり、学校生活は優雅になります。
質素だった食事が豪勢になり、時間に縛られていた生活がなくなって、ひとりの紳士として扱われます。
なぜ、パブリック・スクールは規律が厳しいのかというと、未熟な少年のうちに辛抱や美徳を叩き込み、自由な大人の世界で、ひとりの自立した紳士として活躍できるよう、訓練される場だからです。

現代のように子供のときに甘やかしすぎると、大人になったとき自立しづらいのだというのが、昔から続く英国の常識だったようです。
posted by 夏 at 19:41 | TrackBack(0) | 西洋史(雑学・専門) | 更新情報をチェックする

毒の話

B00G44VKZK毒の話 (中公新書)
山崎幹夫
中央公論新社 1985-10-01

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人類誕生以来、人間は食物や薬を求める中で、数限りない毒と付き合ってきた。そして今日も、食性の変化、社会の変貌につれて、未知の新たな毒との出合いを続けている。本書は、暗殺教団の谷の大麻、ゾロアスター教の覚醒剤エフェドリン、ナポレオンを殺した砒素、ナゾの中毒事件を生んだタリウム、そして毒を消す毒テリアカなど、恐怖と忌避と悪の魅惑に彩られた一五の毒をエピソードとともに紹介し、その実態を科学的に解明する。

最近、新書が続々と電子書籍化されているようで、嬉しいです。読みたかったけど絶版になったり、置き場所がなかったりして購入を躊躇していた新書がたくさんあるので、マンガも飽きてきたし、今後はいろいろ読むつもり。

いわゆる昔からある毒薬の話。
大麻、ふぐ、ベラドンナ、コレラ、ヒ素、覚せい剤、煙草、コカイン、きのこ、青酸カリ、トリカブト、米カビ毒、毒を消す毒?テリアカ……の歴史的エピソード。
どれもコンパクトにまとまっていて、読み物としても面白いですが、資料としても使えそうです。
昔から知られている毒はいったいなんなのか、ナポレオン毒殺説、などなど興味深い内容でした。
posted by 夏 at 19:29 | TrackBack(0) | 西洋史(雑学・専門) | 更新情報をチェックする

打ちのめされるようなすごい本

B00PVM507K打ちのめされるようなすごい本 (文春文庫)
米原万里
文藝春秋 2009-05-10

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「ああ、私が10人いれば、すべての療法を試してみるのに」。2006年に逝った著者が、がんと闘いつつ力をふり絞って執筆した「私の読書日記」(週刊文春連載)に加え、1995年から2005年まで10年間の全書評を収録した最初で最後の書評集。ロシア語会議通訳、エッセイスト、作家として56年の生涯を走り抜けた米原万里を知るには必読の一冊。この本には、彼女の才気とユーモアが詰まっています。

読書を愛されただけあり、ものすごい数の書籍を紹介しています。どれも短い文章のなかに、それぞれの本への思いが綴られ、読みたくなるタイトルがいっぱい出てくることまちがいなし。
とくにロシアものがどれも面白そうで、絶版本を電子書籍で復刊してくれれば読んでみたいなーと思います。
その反面、時事ものがどうしてもイラク戦争当時のなのもあって、時代遅れになってしまいます。当時はマスコミもブッシュを非難するものばかりだったよなー。ISISが誕生したり、時代はさらに複雑になってしまったよなーと、いろいろ考えてしまいました。

がんを患った末期のころのエッセイが、泣ける。
健康な人からみれば怪しい本を信じて、遠くの病院で治療するも、結果がさっぱり……で、医者ともめて落胆されるところが読んでいてもつらかったです。あの米原女史でさえ、病で心が弱ってしまうのだな、と。
腹立つのは、藁をも掴む病気の人たちを騙して、高額な医療費を使わせる本の著者の存在でした。まさしく悪徳医師。しかもひとりやふたりじゃないですからね……。
posted by 夏 at 19:17 | TrackBack(0) | コラム・エッセイ | 更新情報をチェックする