2010年10月05日

カストラート

4102460012カストラート (新潮文庫)
アンドレ コルビオ Andr´ee Corbiau
新潮社 1995-06

by G-Tools  イーブックオフ

カストラート、それはソプラノの美声を保つために去勢された男性歌手のことである。なかでも18世紀ヨーロッパを席捲したファリネッリは、3オクターブ半の声域を誇り、“天使の声”に熱狂して失神する貴婦人が続出した。彼の曲をすべて作曲した兄とは女性をも分け合う仲だったが、天才ヘンデルとの出会いが2 人の関係に影を落し始める…バロック・オペラの寵児の波乱に生涯。

小説というよりお芝居の台本に近い雰囲気だな、と思ったら、案の定、映画監督が脚本として書いた作品でした。それを小説に仕立て上げたためか、理性ではなく情感に訴えるような表現がしばしばあって、個人的にはちょっと読みづらかったです。
文章は平易で美しい。でも全体的に説明が少なくて、「どうしてこういう展開に?」と何度も理解しづらいシーンがあったので……。

物語は面白かったです。天才のカストラートのカルロと、その兄リッカルドの絆と確執が軸となって、かのヘンデルやイギリスの貴族たちを巻き込むドラマ。メインはやっぱり、ロンドンの貴族オペラ劇場での喝采。18世紀当時は劇の筋よりも、古典劇をど派手に着飾った歌手が美声を披露して、観客たちをうっとりさせるのが主流でした。表紙や扉絵にあるような(画像がないのが残念)、小林幸子(笑)バリの衣装です。真っ白な化粧に真っ白な衣装、そして頭に羽飾りや冠、背中にはでっかい孔雀の羽を背負ってる……そんな写真。舞台もきんきんにゴシックしてます。

そして物語もだけど、解説が秀逸。とってもわかりやすくカストラートの歴史について書かれていました。
もともと教会で女性が歌うことは禁忌とされていて、代わりを受け持った裏声の男性がやがて、去勢されたカストラートへと変遷していきました。そして彼らは当時、非常にもてはやされており、聖歌隊だけでなく才能のある者はオペラ歌手として活躍するように。
金持ちの女性が愛人兼パトロンになることもあって、なかなか優雅な生活をしていました。ただ、一生、男として生きていけないこともあり、鬱屈した部分埋めるようにして己の芸に磨きをかけるため、相当レベルが高かったようです。その後の声楽の基礎をつくったほど。
ただ、だんだんと古典劇ばかりでマンネリ化してしまって、女性歌手も登場するようになるにつれ、カストラートは衰退していきます。あと、食い扶持を稼ぐ方法に移民として海を渡るのも主流になったのも要因。
玉抜き去勢の方法も具体的に書かれていて、はじめは農家、やがて熱湯消毒と麻酔が発明されると外科医へ。はじめはすべて去勢していたから、死亡率も高かったとか。そうまでしてもカストラートになりたかった少年がたくさんいたというんだから、当時の貧しさがそうさせたのでしょう。蒼穹の昴の主人公を思い出す、エピソード。

何年も前に映画版を観たんですが、そちらがおすすめ。やっぱり豪華絢爛な衣装とカストラートの歌声が聴けるのがポイント高いです。
ファリネッリって実在した歌手だったんですね。架空の人物かと思ってた。ドラマチックな人生だったので、それが驚きでした。

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↑廃盤でした。レンタルで発見。
posted by 夏 at 23:03 | TrackBack(0) | 西洋史(古典・小説) | 更新情報をチェックする

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