2017年02月11日

オペラの運命 十九世紀を魅了した「一夜の夢」


オペラの運命 十九世紀を魅了した「一夜の夢」 (中公新書)
オペラ――この総合芸術は特定の時代、地域、社会階層、そしてそれらが醸し出す特有の雰囲気ときわめて密接に結びついている。オペラはどのように勃興し、隆盛をきわめ、そして衰退したのか。それを解く鍵は、貴族社会の残照と市民社会の熱気とが奇跡的に融合していた十九世紀の劇場という「場」にある。本書は、あまたの作品と、その上演・受容形態をとりあげながら「オペラ的な場」の興亡をたどる野心的な試みである。

いわゆるオペラの歴史です。ただし作品の解説ではなく、あくまでもオペラの始まりから衰退までの流れです。劇場=オペラ空間と観客たち、に焦点があてられているという、まさに歴史書でした。そこがよかったです。

オペラは17世紀、絶対王政のバロック時代のイタリアが発祥。王が資金に糸目をつけず、豪華絢爛な舞台を祭りとして披露したのが始まりです。
ギリシャ悲劇復興をテーマにした宮廷舞台でしたが、内容はそっちのけ。とにかく非現実を演出する一大スペクタクルの祝賀祭典でした。(オペラ・セリア)
そのとき大活躍したのがカストラートという、男性歌手。男なのにまるで少年のような声で歌う姿で、人々を魅了したのです。以前、映画のノベルズを読んだのでこちらを参照。
面白いのは同じキリスト教でもカトリックだったからこそ、実現可能だったオペラであること。勤労と清貧を信条とするプロテスタントだとありえないお金の使い方だったそうです。

やがて18世紀後半、ロココ時代になると、モーツァルトが登場します。
バロック時代のオペラはあくまでも宮廷行事であり、庶民はもちろん市民が観賞することは不可能でした。王族貴族の贅沢な行事に、市民たちに非難されるようになります。啓蒙と王の力(財力)が落ちていった時代でもありました。
そんなとき登場したのが、オペラ喜劇(オペラ・ブッファ)。将来の凋落を予感しはじめた貴族たちが夢中になって、馬鹿騒ぎの劇を楽しむようになります。
そんなとき、颯爽と登場したのは作曲家であり、戯曲家のモーツァルト。有名なのがフィガロの結婚です。
当時、大仰で格式張ったオペラ・セリアは飽きられ、陽気な喜劇は人間的な男女が舞台に立ちました。どたばたの恋愛劇な人間臭いドラマへと変化します。当時のオーストリア皇帝、ヨーゼフ二世も大の喜劇好きでした。とくにモーツァルトが、人間的なドラマを描くのが得意でした。

フランス革命を経て、19世紀になると、フランスでは庶民たちが力を持つようになります。贅沢ができなくなった貴族の代わりに、成金――ブルジョワたちが貴族社交界の真似事として、オペラを観賞しました。
しかし教養があまりないブルジョワたちには、オペラ観賞は退屈そのもの。そして社交が目的だったため、観賞そっちのけで、ボックス席の客同士で雑談やトランプをして楽しみました。
ブルジョワたちのためにオペラは理解しやすく、壮大なものへ変わります。歴史や外国の風景と、コスチューム姿の群衆で再現し、メロドラマ的な作品が大流行します。(グランド・オペラ)
現代でいう、エンターテイメント化して、中流階級だけでなく庶民も平土間でオペラを楽しみました。

19世紀なかばに登場し、国民オペラを作ったのがワーグナー。オペラを知らなくても、その名前はだれもが聞いたことがあるほど有名です。
当時のドイツはオペラ後進国でした。なぜなら、オペラ作家を目指すにはイタリアかフランスへ留学するのが前提だったからです。しかし自国のオペラがないことにドイツの人々は不満を持ってました。
そんな時代、放蕩王で知られたバイエルンのルートヴィッヒ二世がパトロンとなり、ワーグナーを支援。彼は壮大なドイツ神話のオペラを作曲しました。ニュルンベルクの指輪、がそれです。
王の莫大な支援があったからこそ、できたオペラともいえます。その豪華絢爛な劇は、バロック次代から続く、非現実な一大スペクタクルの空間を作るオペラの本質そのものでした。

ほかにも隆盛を極めたオペラは文化の象徴になり、ブラジルやエジプトでも作られ、上演されました。しかし作曲はほとんど、イタリア、フランス人だったといいます。(エキゾチック・オペラ)

そんなオペラも第一次世界大戦後、一気に衰退しました。なぜなら、あまりにも悲惨な戦争だったため、人々は作り物の悲劇や豪華絢爛舞台に興味がなくなったのです。
そしてフィルム映画の登場で、さらにトドメを刺されてしまい、現代のように古典としてオペラは存続しています。

西洋の近代歴史が好きだったらおすすめです。オペラに興味がなくても、文化史として楽しめます。
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posted by 夏 at 20:51 | TrackBack(0) | 西洋史(雑学・専門) | 更新情報をチェックする
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