2014年02月01日

壜の中の手記

4042961010壜の中の手記 (角川文庫)
ジェラルド カーシュ Gerald Kersh
角川書店 2006-11

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ビアスの失踪という米文学史上最大のミステリを題材に不気味なファンタジーを創造、エドガー賞に輝いた「壜の中の手記」、無人島で発見された奇怪な白骨に秘められた哀しくも恐ろしい愛の物語「豚の島の女王」など途方もない奇想とねじれたユーモアに満ちた語り/騙りの天才カーシュの異色短篇集。「凍れる美女」「壁のない部屋で」の新訳2篇、「狂える花」ロング・ヴァージョンを収録した新編集版。

ファンタジーと伝奇とホラーがミックスしたような短篇集。レトロで斬新。個性的な作風が面白かったです。
まだ未開の地がたくさん存在した当時だけあり、欧米文明から遠ざかった僻地の話が多かった。今だと偏見、と言われそうだけど、ミステリアスな設定が摩訶不思議な世界観に生きています。

とくに印象に残ったのをいくつか。

「豚の島の女王」。無人島に漂流した見世物芸人たちの末路。不具の人々が見世物だった時代ならではの残酷さが恐ろしくもあり、悲しくもあります。彼らしかいないからこその楽園だったのでしょうか。

「壜の中の手記」。いわゆるマヤやアステカ、インカ文明をモチーフにしたファンタジー。魂の晩餐っていったいなんだろうか。不老不死っぽいけど、ロバになってしまうような気も。謎をそのまま残しているのがかえって余韻をもたらすラスト。それにしてもこんな長い文章を瓶に詰め込んだ、ピアスの器用さがすごいw

「破滅の種子」。いわゆる呪いの宝石ネタ。巨大な宝石って何かしら不幸をもたらすっていいますが、これは代償を払えば逃れられるという点がユニーク。

「ブライトンの怪物」。オチに驚き。まさかの地元ネタw うーん、たしかに当時のイギリス人からみたら、怪物に見えても不思議じゃないかも。しかし○○って×××な人じゃないとそこまでしないはず……。これも一種の欧米的偏見でしょうか?

「時計収集家の王」。これが一番好き。発想がユニークなのもあるけど、本体が無くなったあとのやりとりが面白い。あのロシアならありそうに思わせるネタなのもよかったw
タグ:★★★

2012年11月11日

高慢と偏見とゾンビ

4576100076高慢と偏見とゾンビ
ジェイン・オースティン セス・グレアム=スミス 安原 和見
二見書房 2010-01-20
楽天ブックス
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18世紀末イギリス。謎の疫病が蔓延し、死者は生ける屍となって人々を襲っていた。田舎町ロングボーンに暮らすベネット家の五人姉妹は少林拳の手ほどきを受け、りっぱな戦士となるべく日々修行に余念がない。そんなある日、近所に資産家のビングリーが越してきて、その友人ダーシーが訪問してくる。姉妹きっての優秀な戦士である次女エリザベスは、ダーシーの高慢な態度にはじめ憤概していたものの…。全米で誰も予想だにしない100万部を売上げた超話題作、ついに日本上陸。

初めてタイトルを見たときから、すごく気になっていた作品。古典にゾンビって爆発的な破壊力がありすぎ(笑!
以前、正統版(自負と偏見)を読んでいたから内容は知っていたため、じっくりと読みませんでした。ゾンビが登場する場面以外は(爆笑!

内容は古典とほぼ同じ。というか、これ、本編にときおりゾンビを挿入しただけ?。なのに文章の入れ具合が絶妙で、古典を読んだことなかったら、ホントにあるかもと思わせるのがすごい。
その代わり挿入しただけだから、どうもイメージがちぐはぐで、とくに主人公のエリザベスが二重人格っぽくなっていました。ゾンビと死闘を繰り広げたあと、何くわぬ顔で姉妹たちと舞踏会とか、ギャップがありすぎなのがおかしい。
あるシーンでは末妹のおしゃべりを、首を掻き切って止めさせたいと思っていたはずが、例の駆け落ちでは涙をこぼすほど動揺しているし、どっちが本音なんだ?と突っ込みたくなりました。本編はどうだったけ?

いろんな人物が同じように登場するのですが、とくに様変わりしていたのが、レディ・キャサリン。忍術の達人で、なぜかベネット姉妹が修得している少林寺拳法を見下し、ラスト近くでは主人公とハリウッドばりの決闘ならぬ死闘を繰り広げます。
つぎに気の毒なのが、シャーロット。彼女、なんとゾンビになる病に感染してしまって、ついに葬られるも夫であるコリンズ氏も後追い自殺してしまうという。本編はまったく平穏だったのに(笑
あと悪役であるウィカム氏の変わり果ててしまって、勧善懲悪っぽい展開になってました。ダーシー氏、優しいはずなのに、それはなさすぎというギャップがおかしかったです。
ちなみに母親のベネット夫人は、ゾンビ編でもいいところまったくなかったです。ゾンビに遭遇しようが、本編そのまんま(爆笑
ゾンビが脳みそに似たカリフラワーが大好物な設定にも笑った(笑

全体的に話の筋はほぼ同じで、ゾンビ率があまり高くなかったから、二度よみしている気分になったのが個人的に残念。もっと本編とは異なる展開があったら、よかったのになあ、と思いました。
まさしくタイトルの勝利でしょうね。インパクトありすぎて、つい手にとってしまうから。

2011年12月02日

クリムゾンの迷宮

404197903Xクリムゾンの迷宮 (角川ホラー文庫)
貴志 祐介
角川書店 1999-04

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藤木はこの世のものとは思えない異様な光景のなかで目覚めた。視界一面を覆う、深紅色の奇岩の連なり。ここはどこだ?傍ら携帯用ゲーム機が、メッセージを映し出す。「火星の迷宮へようこそ。ゲームは開始された」

就寝までに時間があったから、読んでみたら。怖くてグロくてインパクトあって、眠れなくなったという。おまけに面白いから止まらない! おかげで寝不足。昼間読めばよかったと思うほど、秀逸なサバイバルホラーでした。

まずね、始まりからして何がなんだか、わかりません。主人公、藤木が夢も希望もないおっさん(といってもまだ若いけど)なのもあって、悲壮感たっぷり。元エリートの末路の象徴、くたびれたスーツ姿のまま、いきなりゲームに放り込まれます。
目が覚めたら、ここはどこ? あらかじめ用意されていたアイテム――カートリッジゲーム機のメッセージに従って、話が進んでいくうちに、怪しい雲行きに。

そして後半から、怒涛の展開が始まって、食人鬼(グール)との死闘にハラハラ。文字通りゼロサムゲームだから、生き残ったひとりがゲームをクリアするまで続くのです。
この作品がすばらしいのは、ラストのエピローグまで、ゲームの目的が明かされないこと。いったいこれはだれが何の目的で?と気になって一気読み。
初めはSFなのかな、と思ったら、オーストラリアが舞台。その効果もあってか、リアルさがさらに増しています。

序盤でゲームの目的が何もわからないまま、参加したメンバーが東西南北の行き先を決めるシーンがあるんだけども、1999年当時だったらまず「食料コース」を選ぶのは妥当かも。そのころはまだインターネットがそれほど普及していないし、今ほど、情報のあるなしの重要性が実感できなかったっけ、と思いました。
なので、これがもし2010年以降に書かれたら、まずだれもが「情報コース」を選択する設定かもしれないな。ネットがあるのとないのとでは、世の中の動きを実感できる大きさがかなりちがいますものね。

ちなみにヒロインのフルネームが、オチそのまますぎてあとから笑えたw
あとプラティ君の解説が明るくて冷酷なのが(笑)、いかにも当時のゲーム世代っぽいネタで面白かったです。

残酷系の描写が大丈夫なら、かなりおすすめの娯楽小説です。絶賛されているのもわかるクオリティ。

2011年07月16日

天使の囀り

4041979056天使の囀り (角川ホラー文庫)
貴志 祐介
角川書店 2000-12

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北島早苗は、ホスピスで終末期医療に携わる精神科医。恋人で作家の高梨は、病的な死恐怖症だったが、新聞社主催のアマゾン調査隊に参加してからは、人格が異様な変容を見せ、あれほど怖れていた『死』に魅せられたように、自殺してしまう。さらに、調査隊の他のメンバーも、次々と異常な方法で自殺を遂げていることがわかる。アマゾンで、いったい何が起きたのか?高梨が死の直前に残した「天使の囀りが聞こえる」という言葉は、何を意味するのか?前人未到の恐怖が、あなたを襲う。

タイトルからしてファンタジーと思って読んだら、どうもミステリーっぽい。だんだん謎がとけていくうちにこれはホラーだと気が付きました。

いかにもありそうな展開と、緻密な下調べのためか、リアルな内容に仕上がっています。だから読んでいるうちに、○系が苦手な私はだんだん読むスピードが落ちてしまって、読み終えるのに半月かかったという。
天使の囀りの正体が○○、いつか本当にありそうで、アマゾンじゃなくて隣国の奥地とか実際に奇病がよく発生していますしね。事実は小説よりも……ということにはなりませんように。○も怖いけど、被曝問題もフィクションだったらいいな(涙

登場人物のなかで信一というひきこもりが、ネットでよくみかけるタイプなのが、当時から考えると最先端をいっています。ただ彼は一応、コンビニバイトをしてるけども、それ以外はひたすら恋愛ゲームにのめりこんで、○○ちゃんは俺の嫁、状態。また今ほどネットも普及していないのに、この人間観察は鋭い。そしてホラーだからラストが救えないという設定も、気の毒でした。

2009年12月11日

怪奇小説傑作集5<ドイツ・ロシア編>

4488501109怪奇小説傑作集5<ドイツ・ロシア編>【新版】 (創元推理文庫)
植田 敏郎
東京創元社 2006-08-30

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積読したまま、忘れていたのをようやく読了。

ドイツ編は真面目な怪奇モノで全体的に陰湿な雰囲気。ぶっとんだ設定がない代わりに、実際にあるかも?と思わせるような物語だったので、痛いシーンや残酷な設定がリアルです。
とくに怖かったのが、『イグナーツ・デンナー』。善人を装った残酷な盗賊、さらにその父は破門された悪魔崇拝者という設定には、読んでいて気持ち悪くなったほど。(スプラッタ系は苦手なんです……)
闇のなかをうごめく湿度の高いお話は、前に読んだ『皇帝の魔剣』とも雰囲気が似ていました。同じドイツだから自然と作風も似てくるのかな。

対してロシア編。
予想通り……いや、それ以上にぶっ飛んだお話ばかり。『妖女』なんて長いわりには行き当たりばったりな大胆な設定で、ロシア民話集を思い出したほど。とにかく豪快で大胆で展開が速くて、作品の整合性は二の次だけど面白い。ただオチがあっさり残酷系だったのがちょっと残念。昔の小説だから、こんなものなのかなとも。
あとのお話は文豪だけあって、どれも面白かったです。チェーホフなんて怖さよりも、哲学的なのが当時の風潮を物語っています。革命が起こる前って、理想がどこまでも崇拝されていたのでしょうねえ……。(現実はアレだけど)。
そしてトルストイの題材が、かの『カリオストロ』伯爵。かっこよく登場するのかと思いきや、思いっきり俗物の悪役でした。怪奇小説らしく、絵画から美女が抜け出てくるシーンは素晴らしいです。が、ちゃんと皮肉もきいていて、主人公のアレクセイ以外は、黒い虫にしか見えないのでした。設定の細かさもいいです。

シリーズを読破しての結論。
英米編がおすすめ。さすが怪奇小説の本場、イギリスはちがう。