2016年10月07日

ハリー・オーガスト、15回目の人生

B01KNLFH8Uハリー・オーガスト、15回目の人生 (角川文庫)
クレア・ノース 雨海 弘美
KADOKAWA / 角川書店 2016-08-25

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1919年に生まれたハリー・オーガストは、死んでも誕生時と同じ状況で、記憶を残したまま生まれ変わる体質を持っていた。
彼は3回目の人生でその体質を受け入れ、11回目の人生で自分が世界の終わりをとめなければいけないことを知る。
終焉の原因は、同じ体質を持つ科学者ヴィンセント・ランキス。彼はある野望をもって、記憶の蓄積を利用し、科学技術の進化を加速させていた。
激動の20世紀、時を超えた対決の行方は?

20世紀初頭のイギリスが舞台にひかれ、サンプルを読んでみたら止まらなくなって即キンドルで購入。
これは面白かったです。久々のマイ・ベスト小説!
日本人作家だったらこんな発想しないだろうな、という奇想天外の内容。まさしくアイデアの勝利。そして、その突拍子のないアイデアを、破綻がないままひとつの壮大なドラマとして書き上げたのがすごい。

テーマはいわゆる不死と転生でありがち。だけど、同じ人生を何度も記憶を持ったままくり返すのが新鮮。前世の失敗を、二度目の転生で取りもどす。というパターンはよくあるけど、さらに三度、四度、十回……と延々と続きます。
そんな転生する彼ら(ひとりだけじゃない)にも弱点があり、それがラストへの布石になりますが、たったひとつのシンプルな答えを導き出すために、何度も転生して皮肉な友情ごっこをする描写が印象的でした。
まさしく壮大な嘘。だけど、孤独な主人公たちが求める友情は真実でもあります。だから最後までバレなかったのでしょう。
冒頭のメッセージの意味が解ける、ラストに鳥肌が立ちました。それぐらいすごかった。

いろいろフィクションらしい設定があるのですが、とくに秀逸だと思ったのが、「転生単位の伝言ゲーム」。
各々の時代に不死者が存在していて、死ぬ前にまだ幼児の不死者へ伝言。その幼児が老齢になって死ぬ前、またべつの不死幼児へ伝言……。それを繰り返していけば、過去から未来への壮大な伝言になります。過去にあった歴史を不死者たちはそれで知ることができます。
その逆に、幼い不死幼児がこれから死ぬ不死者へ伝言します。その不死者が転生し、また別の老齢不死者へ……と伝言。そうすると、未来のできごとが過去へ伝わります。

それがキーとなり、やがて訪れる世界の破滅を主人公ハリーが知ることから、物語が一気に加速。読み始めたころはどちらかといえば歴史モノっぽいのですが、後半はまさしくSFでした。
だからこれはSFファンタジーです。歴史モノと思って読んでいたら、いい意味で裏切られました。
文章も堅くなくて読みやすかったです。今まで読んだ小説のなかで、トップテン入りするほど面白かった! 翻訳ものに抵抗がなければ、とってもおすすめです。
タグ:★★★
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2014年02月01日

華竜の宮 上下巻

4150310858華竜の宮(上) (ハヤカワ文庫JA)
上田 早夕里
早川書房 2012-11-09

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ホットプルームによる海底隆起で多くの陸地が水没した25世紀。人類は未曾有の危機を辛くも乗り越えた。陸上民は僅かな土地と海上都市で高度な情報社会を維持し、海上民は“魚舟”と呼ばれる生物船を駆り生活する。青澄誠司は日本の外交官として様々な組織と共存のため交渉を重ねてきたが、この星が近い将来再度もたらす過酷な試練は、彼の理念とあらゆる生命の運命を根底から脅かす―。日本SF大賞受賞作、堂々文庫化。

何度か、すごくて面白い、という感想を見かけていたので、読んでみました。想像以上にすごかった!

正直な気持ち、タイトルに竜とあったんで、ファンタジックなSFを期待しながら読んだのですが。
まったく竜は登場せず、いるのは人間の遺伝子から創造されたという、魚舟。なんとそれは遺伝子操作されて誕生した種族で、人間とともに双子として生まれてくるという。

魚が人間の遺伝子から……それがもう衝撃的というか、ある意味グロテスクというか。さらにすごいのが、双子の片割れが死んでしまったときは、行き場を失ってしまい、獣舟に変化して陸上の人間を食べるという設定。
何もかもが読んだことのないぶっ飛んだ世界観。
陸上民のほうは、創造の範疇というか、脳内で人工知性とやりとりするのがSFそのもの。

そして話は人類の滅亡へ静かに向かっていき、そんな数十年後の世界を救う手立てもなく(そこがありがちなSFやファンタジーと異なる点)、どうすれば人類が子孫を残し、生き延びられるかが模索されます。
その研究……遺伝子操作がまたグロテスク(苦笑) 袋民も衝撃的だったけど、ルーシーというまるで深海魚人類を作り出すことにためらいを感じない未来がなんとも言えず。
どうしても嫌悪感を拭いきれませんでした。

が、そんな倫理的なタブーをものともせず、作品世界が展開されるのが恐ろしくも有り素晴らしくもあり。
あと、語られる外交官の主人公、青澄がとっても鬱系キャラクターでして、あまり好きになれなかったにもかかわらず、圧倒的な文章力で読ませるのもすごかった。
それとは対照的なオサ・ツキソメが好印象。しかし彼女の正体がこれまた……。

とにかく読めば読むほど、練りこまれた未来の地球の姿が鮮明に頭のなかに浮かび上がって、諸行無常な世界に引っ張られまくりでした。
そんな希望のない世界でも、必死に生きている人間たちのドラマが素晴らしかったです。

ラストのコピー・マキの言葉が胸をえぐります。
「彼らは全力で生きた。それで充分じゃないか」

面白かった以上に、すごかった読後感でした。読んだら忘れられない作品。
タグ:☆☆☆
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2013年01月02日

オイレンシュピーゲル 1~4

4044729018オイレンシュピーゲル壱 Black&Red&White (1)(角川スニーカー文庫 200-1)
冲方 丁 白亜 右月
角川書店 2007-01
楽天ブックス
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「なんか世界とか救いてぇ―」。あらゆるテロや犯罪が多発し『ロケットの街』とまで渾名される国際都市ミリオポリスに、「黒犬」「紅犬」「白犬」と呼ばれる3人の少女がいた。彼女たちはこの街の治安を守るケルベルス遊撃小隊。飼い主たる警察組織MPBからの無線通信「全頭出撃!」を合図に、最強武器を呼び込み機械の手足を自由自在に操り、獲物たる凶悪犯罪者に襲いかかる!クールでキュートでグロテスクな“死に至る悪ふざけ”開幕。

一巻目を読んだ時、ぶつ切りされた読みにくい文章と無敵美少女系萌え設定が好みじゃなくて、失敗したな……と後悔。いかにもラノベって感じで困った。評判だから4巻まとめて買ったのにどーしよ……。
と落胆しつつももったいないんで、2巻を読んだら、ここから面白くなってきてほっとした。あと文章もいくらかぶつ切りが減って読みやすくなって、あっという間に読了。マルドック……を思い出しましたよ、これはすごい!そして面白い!

そして3巻目と4巻目は三人の少女たちの奮闘と、絶え間ないアクションと残酷な描写ではらはらしつつ、続きが気になってたまりませんでした。どうやら別主人公のシリーズとその後の展開のシリーズもあるみたい。完結していないのが残念というか、直木賞とられたんでもしかしたら執筆されないかもしれませんね。一般向けで有名になられたらどうしてもそちら優先でしょうし。

涼月、陽炎、夕霧と三人の14歳の少女は、みな個性的で心に傷も負ってます。ただどれも両親に愛されなくて虐待されていたり、愛されても見捨てられてしまったりとかなりのトラウマレベル。三人一様の不幸ぶりがとってつけたようでもあったんで、一巻目はそれで好きになれなかったのもあります。
けれど話が進むに連れて、それぞれちがった過程を経て克服しつつ、戦う姿が感動的。これでもか、と痛く悲しい困難を乗り越える少女たちがかっこいいです。そして愛らしくもあります。三人ともずる賢さがなくって嫌味がないのがいいですね。
どうしても女性作家だったら女の嫌な部分(三人以上になると序列とか嫉妬とかね……汗)が出てしまって、そこまでさわやかな関係になれないとも思います。男性作家ならではの醍醐味。

そしてすごいのは当時の世界情勢を細かく調べていて、ものすごい密度で設定に生かされています。
……が、あまりにも濃くてもう少し頁数があって、文章がぶつ切り系じゃなかったらもっと読みやすかったのだろうにと、残念でもありました。まあラノベだから文章量をできるだけ減らしつつ、臨場感を出すためなのでしょうけども、私にはとくに戦闘シーンが読み慣れない単語の羅列なのがきつかったです。ふだんSF系読んでないからかもしれません。
あとナ○ス=悪という設定も安易だな……と思うも(特に1巻目はひどい。それって逆差別になるような)、どうやらさらに黒幕がいるらしく、いったい何者がテロを扇動しているのかが気になる終わり方でした。
タグ:☆☆☆
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2012年01月20日

四畳半神話大系

四畳半神話大系 (角川文庫)
四畳半神話大系 (角川文庫)森見 登美彦

角川書店 2008-03-25
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私は冴えない大学3回生。バラ色のキャンパスライフを想像していたのに、現実はほど遠い。悪友の小津には振り回され、謎の自由人・樋口師匠には無理な要求をされ、孤高の乙女・明石さんとは、なかなかお近づきになれない。いっそのこと、ぴかぴかの1回生に戻って大学生活をやり直したい!さ迷い込んだ4つの並行世界で繰り広げられる、滅法おかしくて、ちょっぴりほろ苦い青春ストーリー。

夜は短し歩けよ乙女の前作。てっきり続編かと思ったw こちらのほうが好みでした。

冴えないというか、「男汁」を煮詰めたような「私」と悪友小津という人物がとにかくクドイ。レトロな文章と口調と相まって、さらに濃厚な作者ワールドに染まれるかどうかで好き嫌いがはっきり分かれそうな作品です。
ダメな主人公だけども、意外と行動力があるのが○。同じダメでも受身形ののび太系じゃなくて、本当にどうしようもないイタズラをするシーンとかに笑える。猫を出汁にしているという噂の猫ラーメンと、超高性能亀の子束子いうのも笑えた。その発想、どこから湧くんだっていうw お堅い文章なのに、内容がユーモラスなのもよかったです。

ただ一話目があまりにもあっさり終わってしまって、その続きから二話目に入るのかと思ったら、また同じ冒頭に逆戻りして、あれれ? 同じ文章もたびたびあるし、これはパラレルワールド?と思って読み進めるうちに、ラストの第四話で謎が解ける仕組みになっています。
正直、第三話目はまたまた同じ展開で、少々飽きてきそうだったけど、第四話で落ちがあるはずだ、と期待して読んだらそのとおり、だったのがうれしかった。読み手をじらしつつ、最後まで期待を裏切らない構成力が素晴らしいです。

たぶん、SFなんだろうけども、あまりにも内容は馬鹿馬鹿しいので、波乱万丈を期待したらがっかりするかもしれません。逆に、そういう馬鹿馬鹿しいお話が好きなら、とっても楽しめると思います。
単純なようでいてしっかり練られているので、細かいちがいを探しながら読むのも楽しかったです。

もうね、黒髪の乙女の明石さんが、これまた破壊力があるキャラで……。かわいいんだけども、孤高の毒舌キャラというのも面白かった。
あまり出番がなかったのが残念だけど、甘い展開はこの作品にはふさわしくない、と作中にて四話とも断言されていたから、それでいいのかも。

読後感は「箱に入ったカステラ食べたい!」でした(笑

アマゾンレビューで、同じ文章を読むのが面倒だった、というコメントがけっこうあったけど、そういうときは目でざっと追って、読み飛ばせばいいのに、と思ったのは私だけ? それとも丁寧に読む派からすれば、邪道なのかな???
……はい、第二話と第三話は似たような描写は読み飛ばしました。とくに冒頭と占い部分(汗
タグ:☆☆☆
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2011年02月11日

ウは宇宙船のウ

4488612059ウは宇宙船のウ【新版】 (創元SF文庫)
レイ・ブラッドベリ 大西 尹明
東京創元社 2006-02-27

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幻想と叙情の詩人ブラッドベリの魔法の力で、読者はこの世には見えないものを見せられ、触れられないものに触れることができる。読者は、あるときは太古の昔に誘なわれ、またあるときは突如として未来の果てまで運ばれてゆく。「太陽の金色のりんご」「霜と炎」「霧笛」など、ブラッドベリ自身が16編を自選した珠玉の短編集。

ずっと前から名前は知っていたけど、初めて読んだブラッドベリ。半世紀前に出版されただけあって、懐かしい雰囲気がいっぱいのSFが多かったです。

少年が主人公の家族ものはどれも空気が透明で爽やか。とくに第一話の「ウは宇宙船の略号さ」は漫画化されただけあって、よかった。たった短い日数の出来事なのに、少年がひとりの大人へと階段を登り始める過程のラストに余韻がありました。
漫画版のほうは読んだとき、さらさらっと終わってしまって印象があまりなかったんだけども、原作の小説になると味わいがちがいます。映像では表しにくい言葉と言葉のつながりが独特で、少年らしい瑞々しさにあふれてました。古きよきジュブナイル。

ほかに個人的に良かったのが『霧笛』『宇宙船乗組員』(これらも漫画化されたのを読んだ記憶が。文章で読んだほうが良かった)、『霜と炎』(本格的な中編SF。8日しか生きられないという設定が素晴らしい)、『長雨』、『この地に虎数匹おれり』。
子どものとき漫画やアニメで見たレトロSFな世界観もだけど、そこで繰り広げられる人間ドラマが、ブラッドベリらしくて楽しめました。未来人っぽくないのがいい。

↓漫画版です。原作以外の初期の作品も、ブラッドベリに影響されているのがよくわかります。少年たちの透明な空気が似ている。
ウは宇宙船のウ (小学館文庫)ウは宇宙船のウ (小学館文庫)
萩尾 望都

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