2016年08月07日

イギリス 繁栄のあとさき

B00JQYYHKKイギリス 繁栄のあとさき (講談社学術文庫)
川北稔
講談社 2014-03-10

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今日、イギリスから学ぶべきは、勃興の理由ではなく、成熟期以後の経済のあり方と、衰退の中身である――。産業革命を支えたカリブ海の砂糖プランテーション。資本主義を担ったジェントルマンの非合理性。英語、生活様式という文化遺産……。世界システム論を日本に紹介した碩学が、大英帝国の内側を解き、歴史における「衰退」を考えるエッセイ。(講談社学術文庫)

歴史的なエピソードが思ったより少なかったのが残念でした。レビューが概ね好評だったから、期待してしまったのがいけなかったのかも……。

書かれたのが30年ぐらい前なのもあって、内容的には古いです。まだまだアメリカが強くて、中国に期待され始めたころ。だからでしょうか、グローバル化されすぎて、移民や難民、絶え間ない紛争で世界がここまで不安定になるとは著者も予想していなかったのでしょうね。
じょじょに先進国が衰退していくのは仕方がない反面、中国等の新興国が大国になった今、これから世界を担えるのかは甚だ疑問です。

要するに16世紀に世界一発展したオランダのように、イギリスもじょじょに衰退していくのは避けられないということらしいです。
周辺諸国が安い製品を作るようになると、工業だけでは国が持たないから、つぎは金融へシフトする。しかし、目に見えない金融商品は、政情や景気に左右されやすいのもあって、じょじょに国が衰退してしまいます。先進国がたどる道。
その金融界をリードしてきたのが、ジェントルマン教育を受けたイギリスの紳士たち。彼らがある意味、イギリスらしい経済を創りだしたのです。

しかし一度、先進国になると、世界をリードするだけの存在は残ります。それがいまだ、途上国のままの国とはちがうところ。いくら開発をされても、先進国が豊かになるために開発されてしまうと、なかなか発展しないそうです。それが低開発化された国。サトウキビや綿花、バナナ等のプランテーションが盛んな国がそうです。

表紙や図版はヴィクトリア朝に描かれたものなのに、エピソードはそぐわない内容でした。なぜ、そのイラストを掲載したのかは、解説すらありません……。
20世紀を総括する経済書としてはいいけど、歴史書としては弱いです。
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2016年03月05日

打ちのめされるようなすごい本

B00PVM507K打ちのめされるようなすごい本 (文春文庫)
米原万里
文藝春秋 2009-05-10

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「ああ、私が10人いれば、すべての療法を試してみるのに」。2006年に逝った著者が、がんと闘いつつ力をふり絞って執筆した「私の読書日記」(週刊文春連載)に加え、1995年から2005年まで10年間の全書評を収録した最初で最後の書評集。ロシア語会議通訳、エッセイスト、作家として56年の生涯を走り抜けた米原万里を知るには必読の一冊。この本には、彼女の才気とユーモアが詰まっています。

読書を愛されただけあり、ものすごい数の書籍を紹介しています。どれも短い文章のなかに、それぞれの本への思いが綴られ、読みたくなるタイトルがいっぱい出てくることまちがいなし。
とくにロシアものがどれも面白そうで、絶版本を電子書籍で復刊してくれれば読んでみたいなーと思います。
その反面、時事ものがどうしてもイラク戦争当時のなのもあって、時代遅れになってしまいます。当時はマスコミもブッシュを非難するものばかりだったよなー。ISISが誕生したり、時代はさらに複雑になってしまったよなーと、いろいろ考えてしまいました。

がんを患った末期のころのエッセイが、泣ける。
健康な人からみれば怪しい本を信じて、遠くの病院で治療するも、結果がさっぱり……で、医者ともめて落胆されるところが読んでいてもつらかったです。あの米原女史でさえ、病で心が弱ってしまうのだな、と。
腹立つのは、藁をも掴む病気の人たちを騙して、高額な医療費を使わせる本の著者の存在でした。まさしく悪徳医師。しかもひとりやふたりじゃないですからね……。
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2014年09月14日

終生ヒトのオスは飼わず

4167671050終生ヒトのオスは飼わず (文春文庫)
米原 万里
文藝春秋 2010-03

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2006年に世を去った著者が愛した毛深い家族たち(猫4、犬3)はいかなる運命をたどったのか。好評エッセイ「ヒトのオスは飼わないの?」の続編と、父母の思い出やプラハで住んだ家、自分で書いた死亡記事などを収録した「終生ヒトのオスは飼わず」を一冊に。

ロシア関連のエッセイや小説だけでなく、ペットのエッセイも書かれていたとは知らなかった。たまたま書店で見つけたのを購入。

ロシアものと比べてしまうとどうしても物足りなさはあれど、エッセイとして十分楽しめました。
とても愛情深い方だったようで、殺処分される寸前の犬を何匹も引き取った話がありました。雷に驚いて逃亡した犬、ゲンを探すものの、見つかるのは姿こそそっくりでも、中味は別の犬ばかり。
しかし、見捨ててしまうと殺処分されてしまうため、米原さんは引きとってしまうのです。東京の自宅の庭には犬はもちろん、室内には6匹もの猫。
認知症の母親の介護といい、一人での世話は大変でも、ほとんどエッセイでは愚痴など書かれず、ひたすら猫や犬たちに愛情を注ぐ日々に心が温まります。

やがて近所迷惑や環境のことを考え、鎌倉に新居を建てて、終生、暮らす――はずだったのに、わずか数年で他界される現実に胸が痛んだ読後感でした。
喪主を飼い猫にしていたりと、本当に動物がお好きというか、家族そのものだったのがわかります。頼る夫がいない独身女性の生き方、というのも考えさせられました。

後半には米原家のことが少し書かれています。
祖父が当時でいう庄屋で、裕福な家だったのに、父親が共産主義傾倒したため質素な生活をされていたようです。社会主義はいろいろ問題あるけども、当時は貧富の差がかなり激しいのもあり、新しい思想に夢や理想を託すのもその時代らしいです。
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2013年05月27日

人間はどこまで耐えられるのか

4309463037人間はどこまで耐えられるのか (河出文庫)
フランセス アッシュクロフト Frances Ashcroft
河出書房新社 2008-05-02

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生きるか死ぬかの極限状況で、肉体的な「人間の限界」を著者自身も体を張って果敢に調べ抜いた驚異の生理学。人間はどのくらい高く登れるのか、どのくらい深く潜れるのか、暑さと寒さ、速さの限界は?果ては宇宙まで、生命の生存限界まで、徹底的に極限世界を科学したベストセラー。

タイトルそのまんまの内容でした(笑) 真面目に人間の肉体がどこまで耐えられるのかを検証しています。
これを読むと、人間が快適に生きられる環境ってすごく限られているのがわかります。

まず酸素が薄くなる高山は住めないし(生活環境は5000メートルが限界)、海に潜れないし、潜水艦を作っても水圧で肺が潰れてしまい、一気に上昇したら血液の窒素が気化して死んでしまう。
もちろん、灼熱の砂漠は水がないと無理。人間の肉体は42度が限界だから、それを超えると熱射病で死んでしまうことも。

人間は意外と寒さには強くて、身体の脂肪があればあるほど、生き延びる確率が高くなります。一番、生きるのに快適な温度が28℃。しかし湿度があると汗が気化せず、熱が身体に篭るため、からりとした気候が最適。

一番、面白かったのが、宇宙の章。
真空だから酸素はもちろん、宇宙服ないと即死してしまいます。それだけでなく、宇宙線(銀河放射線)も肉体には危険。意外だったのが、スペースシャトルのなかは人間の皮膚についた菌が逃げる場所がないものだから、感染症にかかりやすいということ。空気がない世界で生きる大変さがあれこれ書かれていました。

本書を読めば、人間が生きられる限界がわかりますので、マンガやライト小説にありがちな荒唐無稽な強さが、いかにリアリティ無視なのかもわかります。そういう視点で読んでみるのも面白いかもしれません。
posted by 夏 at 00:27 | TrackBack(0) | コラム・エッセイ | 更新情報をチェックする

2011年02月19日

アガサ・クリスティー自伝 上下巻

415130097Xアガサ・クリスティー自伝〈上〉 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)
アガサ クリスティー Agatha Christie
早川書房 2004-10

by G-Tools  楽天ブックス

アガサ・クリスティー自伝〈下〉 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)アガサ・クリスティー自伝〈下〉 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)
アガサ クリスティー Agatha Christie

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上巻:1890年9月15日、英国の海辺の避暑地トーキイで、ひとりの少女が誕生した。アガサと名付けられた彼女は、空想好きで内気な少女に成長する。思い出深い子供時代。音楽家を志していた少女時代。電撃的な出会いと結婚。世界大戦。そして、名探偵ポアロの誕生…自らの生涯を数々の興味深いエピソードで語る傑作自伝。
下巻:作家として順風のスタートを切ったアガサ。英国博覧会使節としての世界一周貧乏旅行。大論争を巻き起こす話題作の誕生。だが、その裏で結婚生活は危機に瀕していた。母の死、スキャンダル、そして離婚。傷心の旅行中の、最愛の男性との出会い…“ミステリの女王”が、愛と波瀾に満ちた自らの生涯を初めて語る。

これはすごかった。何がすごかったかというと、自伝なのにとんでもないほど濃密な当時の描写があったこと。もっと早く読んでおけばよかった。
アガサ・クリスティファンにはたまらないだろう、彼女のことがたくさん書かれています。私は作品をいくつか読んだぐらいなので、ファンとはまた異なった感想になると思いますが、その点はご容赦を。

ミステリーの女王として知られているぐらいだから、もっと早くから作家を志していたとの予想はちがっていました。上巻のおわりごろになってようやく、探偵小説を書いてみようと挑戦するくだりがあるほど。その当時は第一次世界大戦で、アガサは篤志看護隊員として、トーキーの病院に勤務しています。20代のなかばのそのときですら、刺繍に代わる趣味としての感覚だったというんだから、びっくり。
面白いことに、美人で器用な姉のマッジがさきに作家デビューしています。短編小説が新聞や雑誌に何度か掲載されるも、あくまでも趣味だから、結婚して主婦になったら何も書いていません。それが当時の常識だったのかもしれませんね。

そしてアガサは結婚、出産するも、電撃的結婚をした夫のアーチーが除隊をして、貧窮しそうになったことで、ふたたび筆をとることに。出版された処女作「スタイルズ荘の怪事件」は、いくつもの出版社に投稿しても断られたといういきさつもあって、ようやく本にしてくれるもたった25ポンド。そのときも作家になるつもりはないとありました。あくまでも趣味のひとつ。
お金に困るたびにアガサは小説を書いていて、ついに離婚が決定的になったとき、やっと作家として生きていくことに決めたのです。生きるために。

離婚のくだりは気の毒というか、アーチーの言い分もなんだかなあ、と。「病気とか不幸がきらいだからと僕は言ったろう」って、子供か、きみは(苦笑)と突っ込みたくなった。ちょうどその前後、アガサは売名行為として非難された、失踪事件を起こしています。が、そのことにはいっさい触れられていません。だから、本当はもっといろいろあったのかもしれませんし、どうしても書きたくなかったのかな。(解説で、夫が殺したんじゃないかと、マスコミに騒がれたとあったので、もしかしたら妻が有名になっていくのに耐えられなかったのかと推察。それだけ彼は普通の人でもあった)

自伝とも思えないほどにまた幸運がやってきて、その二年後には考古学者のマックスと再婚します。一回り以上も年下の夫ですが、とっても大人でおだやかな人。晩年も仲睦まじかったのがとっても幸せそうでした。

全体を通して思ったのは、最初の結婚が満ち足りていたら、作家アガサ・クリスティは誕生していなかったということ。社交界へ出たころに、幾人もの紳士や軍人から求婚されたほど、彼女は美しくて、そのなかには裕福で母親も公認の婚約者もいたんですから、人生なにがどうなるのかわかりません。
まさに作家になるために生まれてきたような人生の自伝でした。

上巻にたっぷり書かれた少女時代、生家アッシュフィールドの描写がとても細かったです。作品では描写があまりない作家だから、自伝ももっと簡素な文章かと思っていたのに、まったくちがっています。
20世紀初頭はまだまだ前世紀であるヴィクトリア朝の名残がたっぷりあって、家だけでなく使用人や、中流階級のひとびとの交流、旅行なども書かれています。
アガサの実家は裕福とはいえず、使用人も三人だけ。もう少しお金がある家は、従僕や執事を雇うのが普通とありました。あと語学の家庭教師として連れてこられたフランス人女性のおかげで、フランス語が堪能になったり(ポアロがベルギー人なのもそのため)、幼い頃の静養旅行がきっかけで好奇心旺盛になったりと、作家になる要素が少女時代に垣間見られます。
タクシーが登場するようになる1910年ごろ、辻馬車を呼び止めるのに玄関でホイッスル一度鳴らすのも時代を感じました。ちなみにタクシーは三度。当時娯楽のひとつだった競馬のことも書かれています。家庭料理に関しても描写が細かい。

というわけで、とくに上巻は資料としてもかなり重宝しそうです。
ラベル:★★★
posted by 夏 at 16:59 | TrackBack(0) | コラム・エッセイ | 更新情報をチェックする