2017年11月26日

血脈と佐藤家の人々(または佐藤紅緑とサトウハチローの実態暴露本)


血脈(上) (文春文庫)
それは大正四年秋、当代随一の人気作家、佐藤紅緑の狂恋から始まった―。生きようとする情熱ゆえに欲望と情念に引きずられる一族、佐藤家の人びとの凄絶な生の姿。第四十八回菊池寛賞受賞。


圧巻。
そして佐藤家の人々の破天荒な生き方に驚き。
昭和初期に活躍した作家、佐藤紅緑とその息子サトウハチローのふたりは、豪快で放埒で女好き、という感想しか出てこなかった。本当にそればっかり(笑)
そして妹の佐藤愛子が書かれた本ですから、内容もけっこう辛辣。肉親の実態(あるいは恥部)をこれでもか、と淡々と書かれています。
昭和時代、テレビ番組でお見かけしていたのでお名前は知ってましたが、サトウハチローの妹さんだとは数年前まで知りませんでした。
サトウハチローといえば、童謡で有名だものだから、その人なりも宮沢賢治のような御方を想像していたものの、これを読んだらガラガラと崩壊します。

なんか、良いところがないというか、こんなやつ(人と呼べないぐらいクズなエピソード満載)が家族や親戚じゃなくてよかった! とほっとするぐらいです(笑)
その父である紅緑はまだ明治時代の志士の生き残りのような人だったから、同じクズでも女子供を守ろうとするだけの気概があります。わがままでもまだ許せる。
しかしその息子たちはみんなそろいに揃って、当時の不良になってしまい、それぞれの最期も長男ハチロー以外は、壮絶です。自死に、戦死に、被爆死。時代だったから仕方ないとはいえ、みな若いのに……。
と思いつつも、後妻のシナは彼らが早死したことで、骨肉の相続争いがなくてよかったともいえる、のが佐藤家の荒ぶる血筋のすごさ。
みんなお金への執着がすごくて、そして散財も半端ないエピソードばかりです。結婚しようが、愛人が当然のようにいて、それで父親の紅緑にお金を悪びることもなくせびるという……。

佐藤家で出世したのが、紅緑とハチローと作者の愛子。
女たちは結婚してなんとか落ち着くも、大勢の男たちはほとんどが堕落して女のヒモか、ニートになってしまいます。息子、孫、ひ孫まで。それでも生きていけたのが昭和らしいというか、今では考えられないような生活ぶりに目が離せません。
あと愛子の姉の早苗の老後がこれまたびっくり。まさしく荒ぶる佐藤家の生き方。
いくら早期教育しても、結局、荒ぶるのですから、これは血筋なのだな、と思わせる読後感でした。
描写はフィクションですが、話と人物は實在です。中途半端な綺麗事なんてない、佐藤家の人々の生きる姿に圧倒された読後感でした。

本編を読了後、エッセイを読めば、創作の裏話や一家の写真で感無量。


佐藤家の人びと 「血脈」と私 (文春文庫)

ラベル:★★★
posted by 夏 at 20:20| 小説-文学・他 | 更新情報をチェックする

2014年11月24日

芙蓉千里 全4巻

4041005329芙蓉千里 (角川文庫)
須賀 しのぶ
角川書店(角川グループパブリッシング) 2012-10-25

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「大陸一の売れっ子女郎になる」夢を抱いて哈爾濱にやってきた少女フミ。妓楼・酔芙蓉の下働きとなった彼女は、天性の愛嬌と舞の才能を買われ、芸妓の道を歩むことになった。夢を共有する美少女タエ、妖艶な千代や薄幸の蘭花ら各々の業を抱えた姉女郎達、そして運命の男・大陸浪人の山村と華族出身の実業家黒谷…煌めく星々のような出会いは、彼女を何処へ導くのか!?…女が惚れ、男は眩む、大河女子道小説ここに開幕。

満州を舞台にした少女小説。一般向けにかかれているためか、コバルト系のノリが少し大人っぽい表現になっていました。いわゆる微NGワード満載w
どのキャラも魅力的で、わくわくするストーリーも健在。流血女神伝シリーズのような躍動感いっぱいの物語です。そしてあの時代の満州らしいのが馬賊。中原の虹にもあったように、残酷なんだけど、熱い男たちの戦いも楽しめます。
前半の芸者編では男爵の次男、黒谷との恋、後半では放浪者の山村との恋があるところが、ロマンス。国境を越えた恋愛が大河ドラマのよう。
がしかし、ただのロマンスじゃないのが須賀さんらしいw
苦い恋愛だけでなく、アクロバティックな活躍をするヒロイン、フミの奔放さに胸がすきます。男たちもかっこよすぎ。女性に甘々じゃないのがかえっていい。

そしてラストはまさかの○○と結ばれるとは、予想できなかった。どちらを取るのか、という読者の思いをすっとばした展開が豪快で笑えました。(内容は真面目だけど、本当に驚いたんだもんw)

全四巻という長さもちょうどよい加減で楽しめる娯楽小説です。
満州を舞台にした作品って少ないのもあって、それも個人的にはたまりませんでした。
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2013年01月31日

ベルカ、吠えないのか?

4167717727ベルカ、吠えないのか? (文春文庫)
古川 日出男
文藝春秋 2008-05-09
楽天ブックス
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キスカ島に残された四頭の軍用犬北・正勇・勝・エクスプロージョン。彼らを始祖として交配と混血を繰りかえし繁殖した無数のイヌが国境も海峡も思想も越境し、“戦争の世紀=20世紀”を駆けぬける。炸裂する言葉のスピードと熱が衝撃的な、エンタテインメントと純文学の幸福なハイブリッド。文庫版あとがきとイヌ系図を新に収録。

アラビアの夜の種族を読んでいたため、今度はフィクションにちがいないと思いながら読みました。嘘をつくのがすごい巧妙な作家さん(笑)

内容はハードボイルドな犬の系譜物語に、二人称で語られるという珍しい文体。こんな小説、読んだことない。躍動感もあって前半は面白かったです。

残念ながら後半になると話を一挙にまとめようとしたのか、駆け足で政情とともに語られていきます。話がぶつ切りになってしまうため、物語に入り込めなかった。あと、現代編の少女の物語も前半でほぼ語られてしまったため、「これだけ?」とちょっとがっかり……。
もっと何がほかの事件が起きるんじゃないかと期待したんだけど、代替わりがオチだったとは。それにしてもかわいくない少女がかえってよかった。あえて美少女を登場させないのが粋w

人間ドラマが少ないぶん、軍用犬たちの熱くて血なまぐさいドラマはすごかったです。生きるためにサバイバルする犬達が、かっこいい。ペット犬じゃない、強く野性味あふれる力強い犬。

初めて宇宙に行ったライカ犬が物語の象徴となっているためか、犬たちの魂が戦争ばかりする人間界を見下ろしているような読後感でした。当時の指導者たちの話し方がざっくばらんなのには、笑った。
posted by 夏 at 21:08 | TrackBack(0) | 小説-文学・他 | 更新情報をチェックする

2013年01月16日

博士の愛した数式

4101215235博士の愛した数式 (新潮文庫)
小川 洋子
新潮社 2005-11-26
楽天ブックス
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家政婦として働く「私」は、ある春の日、年老いた元大学教師の家に派遣される。彼は優秀な数学者であったが、17年前に交通事故に遭い、それ以来、80分しか記憶を維持することができなくなったという。数字にしか興味を示さない彼とのコミュニケーションは、困難をきわめるものだった。しかし「私」の10歳になる息子との出会いをきっかけに、そのぎこちない関係に変化が訪れる。彼は、息子を笑顔で抱きしめると「ルート」と名づけ、「私」たちもいつしか彼を「博士」と呼ぶようになる。

第一回本屋大賞受賞とあるから、もっと軽いぶっ飛んだ内容かと思ったら、意外にもちゃんとした文学でした。もしかして一回目だから?(笑

話題になっているだけあります。まず文章がとても読みやすくて、登場人物たちはみな親しみやすい。そして異色なのがタイトルにあるように、記憶を80分で失ってしまう数学博士の存在。
偏屈というか、そもそも記憶が80分しかもたないから、どの家政婦さんも嫌気がさして続かないという、ブラックリストのお客さん。そんな彼と「私」そして小学生の息子「ルート」が交流するうちに芽生える友情のお話です。

数学博士らしい、細かいやりとりの描写が素晴らしくて、スーツに貼りつけたたくさんのメモがとくに良い。記憶を失う代わりに、博士が記憶すべきことをメモするんだけど、そのなかに私とルートがしっかりと拙い似顔絵で書かれるのが微笑ましいです。そして悲しい――はずなんだけど、だんだんと記憶を繰り返し失う博士の生活に合わせる親子。
やがていっしょに野球観戦したり、誕生日パーティーできるようになる姿がほんとうに微笑ましかったです。
途中、何度も数学の話が出てくるけど、苦手なわたしにはさっぱりわかりません。それでも博士が話すと、さぞかし数学の世界は美しいんだろうなと、思わせる会話が印象的でした。

暗くなりがちな話をあえて、人情たっぷりのホームドラマに仕上げるという、その発想がすごい作品でした。
正直なところ、80分で記憶を失うような人のお世話は、家政婦さんだけじゃ厳しいと思う。80分ごとにタイムスリップしながら生きているようなものだし、混乱してメンタルがおかしくなりそう。普通に生活できるのか?と。 だけどあえて深刻な部分をマイルドにしたからこそ、たくさんの読み手に受け入れられたのでしょう。どちらかといえば文芸というより、非現実なファンタジーっぽい。
posted by 夏 at 22:58 | TrackBack(0) | 小説-文学・他 | 更新情報をチェックする

2012年12月31日

ミノタウロス

4062766515ミノタウロス (講談社文庫)
佐藤 亜紀
講談社 2010-05-14
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話題を攫った、ピカレスクロマンの傑作! 舞台はロシア革命直後のウクライナ地方。成り上がり地主の次男坊ヴァシリは、父の死後ドイツ兵らと略奪、殺戮を繰り返す。’07年度吉川英治新人賞受賞作。

救いようのない物語。何がって、戦争……もあるけど、主人公の生き方があまりにも刹那的。胸が悪くなる反面、ドライな主人公視点なのもあってとても読みやすかったです。

前半は田舎地主の息子として生活をする少年時代、後半は生きるためにひたすら略奪と殺戮を繰り返す日々になっています。いったいどこで道を間違えたのか、と思うにも主人公にぼくにもよくわかりません。あのときが、と回想はあるものの生まれついた悪人というか、良心がない性格です。子供の時からとても冷めた視線で物事を見て語ってますし、女性への扱いもまるでペットや物のよう。
悪知恵が働くというより、頭の中が刹那的で情がないものだから、あっという間に人の道を踏み外すのかもしれません。人を殺しても葛藤というものがないのが怖い。現代で言うモンスターの心を持った人間。○○だったから仕方ないよね、といった具合。

対照的な兄はぼくとちがって物静か(というより感情がない)なんだけども、やはり血筋なのか女中を手当たり次第に手篭めにしています。そして戦争から傷病兵として帰還するも、顔の半分が砲弾に吹き飛ばされて失ってしまうことに。いつもハンカチで顔の半分を覆う姿は、まるで頭が獣で身体が人間のミノタウロスのようだなと思いました。タイトルにあるからつい連想。

いっぽう、ぼくは姿こそ人間のままなんだけども、やることなすこと獰猛な獣のようなのもあって存在がミノタウロスそのもの。
タイトルのように主人公はひたすら略奪と殺戮を繰り返すうちに、行きずりの仲間まで殺してしまってラストは予想通りでした。それでも途中までは外国へ逃亡するのか、と淡いハッピーエンドを期待していたけど、だんだんとあまりの非道ぶりに同情すらわかなくなって、自業自得のオチに納得です。
それぐらい救いようのない主人公たちがかえって清々しいです。読み手が同情しても、そんなもの不要とはねつけそうな勢いの展開。まさしくピカレスク。
あと気になるのが、もしそのまま平和な生活が続いていたら、みんな平凡に生きていたのかな、と。生きるか死ぬかの狂気的日常になると、力こそ正義になってしまうのがおぞましいです。
あと、シチェルパートフと主人公の関係が、天使のそれと似ている。そういう設定がお好きなのかも。父子に似た渋い上下関係に萌えるw

舞台が1918年ごろのウクライナというマニアックさで、しかもその場にいるような描写力がすごい作品でもありました。先日読了した鏡の影も同様。べつの作品を読むたびに「すごい作家さんだな」と思わずにいられません。それでいて読みやすい文章もすばらしいです。あと、作者が作品をかなりドライに突き放しているのもなかなかお目にかかれないレベルで、日本人作家にはめずらしいほど。
ただどの作品も読み手を選ぶためか、ベストセラー小説になれないというジレンマがもったいなくもあります。好き嫌いがはっきりと分かれるから仕方ないのかな……。
ラベル:★★★
posted by 夏 at 19:56 | TrackBack(0) | 小説-文学・他 | 更新情報をチェックする