2016年07月17日

大いなる遺産

B00LBBQKOM大いなる遺産(上)
ディケンズ 山本政喜
グーテンベルク21 2014-07-04

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クリスマスイブの夕暮れ、鍛冶屋の少年ピップは足かせを付けた脱獄囚に捕まり、やすりと食い物をもってこいと脅かされる。このときの恐ろしい経験はあとあとまで尾をひく……田舎暮らしのピップに、降ってわいたように莫大な遺産相続の話がころがりこむ。送り主は誰なのか、世話になっている異様な金持ち夫人のミス・ハヴィサムか? ピップはミス・ハヴィサムの養女エステラへのかなえられない思いを胸にロンドンに出る。だが友人もでき、都会生活にうつつをぬかすピップのまえに、謎の人物が姿をあらわす……話は急転直下、緊迫の度をまし一気に終末へ。皮肉とユーモア、ミステリーと冒険活劇が一体となったディケンズ晩年の傑作。

翻訳された時代が古いためか、それとも直訳に近い表現のためか、言い回しが婉曲で話の流れがわかりにくいシーンがいくつもありました。結局あの時主人公はそう思っていたのか、と後の言い回しで知ります。そこがやや残念でしたが、お話としては面白かったです。さすがディケンズ、と。

お話は三部構成になっていて、一部が主人公ピップの少年時代。
鍛冶屋の姉夫婦のもとで暮らし、ある夜、偶然知り合った囚人を救うことから話が始まります。その後、町のお金持ちの老令嬢の世話をし、成長したら鍛冶屋を継ぐために徒弟になるのですが、突然、某人物がパトロンとなってピップを支援することに。そして第二部まるまる使って、一端の紳士に成長するも、第三部でパトロンの正体に驚き、恐怖し……。
という展開です。

あらすじにすると短くまとまるのですが、昔の小説だけあってなかなか話が進まないのがもどかしい。だけど、三部の急展開からあとは読むのをやめられないほどでした。
まさしく怒涛の展開。一部に潜んでいた伏線が一気に回収されるストーリー展開が圧巻。そしてディケンズらしい、人情というか人間模様に胸を打たれます。
オリバー・ツイストのように悪人がそのままに描かれず、あれだけ忌み嫌っていたはずの脱獄囚の最期をピップが看取るのに涙。
そして貧しくて無学だからと遠巻きにしていた義兄のジョーが、とっても誠実な男――中味は彼のほうが紳士だったというストーリーに感動。
ハッピーエンドとはいかないまでも、その後のピップの生き方にリアリティがあって、満足な読み応えでした。
オリバー・ツイストより大いなる遺産のほうが、ずっとよかった。もっと早く読んでおけば、と少し後悔。
タグ:☆☆☆
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2016年03月20日

ボヴァリー夫人

B00DOT5036ボヴァリー夫人
G・フローベール 生島遼一
新潮社 1965-12-17

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田舎医者ボヴァリーの美しい妻エマが、凡庸な夫との単調な生活に死ぬほど退屈し、生れつきの恋を恋する空想癖から、情熱にかられて虚栄と不倫を重ね、ついに身を滅ぼすにいたる悲劇。厳正な客観描写をもって分析表現し、リアリズム文学の旗印となった名作である。本書が風俗壊乱のかどで起訴され、法廷に立った作者が「ボヴァリー夫人は私だ」と言ったのは、あまりにも有名である。

悲劇というより自業自得な内容でした。
なんていうんだろうか。ボヴァリー夫人のような女性、今でもたくさんいるよなーと思ったり。恋に恋して、ずっと乙女のような恋に憧れて、かわいいからまともな夫と結婚できたにも関わらず、物足りなくてついに不倫……。

ボヴァリー夫人のエマみたいにちやほやされたことないし、あまりロマンスに興味ないタイプなんで、共感できるところは少ない。が、夢想して虚しい現実を紛らわす気持はわかるわー、と(^_^;)
あるていど裕福な夫人らしい当時の悩みだとも思いました。当時のような貧しい庶民だったら、生きることに精一杯で夢想するひまなんてなさそうだ。

この作品でよかったのが、エマの周囲の男性たち。
初めはみな、エマかわいい、美しい、なんて女性らしい、結婚して!
といわんばかりにアプローチするのに、成就して今度はエマが夢中になると、だんだん冷めてしまい、ついに残酷に捨ててしまうという。
で、最終的にずっと愛していたのは、凡庸でつまらない夫だけという。もう少し気が利くタイプだったら、妻が不倫なんかしなかったんだろうなーとも。
冷酷な物売りといい、リアリズムな男性陣が物語を面白くしていました。
あと描写が細かくて美しいのも読みどころ。当時のフランスの雰囲気がたっぷり。
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2014年03月23日

エドワーディアンズ ---英国貴族の日々

4309206212エドワーディアンズ ---英国貴族の日々
ヴィタ・サックヴィル=ウエスト 村上 リコ
河出書房新社 2013-06-25

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1905年、英国、華やかに爛熟する上流社交界―。美しい19歳の青年公爵セバスチャンがたどる愛の冒険譚。男爵家令嬢にして作家、詩人、名高き造園家、ヴァージニア・ウルフの同性の恋人、幾多の顔を持つ女流作家ヴィタが綴るもうひとつの『オーランドー』。

美しい青年公爵の恋。しかしその恋はどれもほろ苦く、豪華絢爛な上流階級の生活とともにかかれています。
1930年に書かれたのだから古臭い部分もあるのですが、そのぶん現代にはない貴族たちの価値観や人生がたっぷりとつめ込まれています。

やがて崩壊していく階級社会の予感を抱きながら生きる、主人公セバスチャンはもちろんのこと、その母である未亡人ルーシーや、妹のヴァイオラ等、一人ひとりの姿が皆ちがっていました。同じ貴族でも、時代の流れに逆らうものや抗えず退廃的になるもの、信じない者、生き方を変えようとする者……。

セバスチャンの恋は皆ばらばらの階級の女性が相手。
一人目のシルヴィアはなんと母親の友人。愛人関係になるから、もちろん秘密だったのに、あまりにも本気になってしまうから、夫にバレて破綻してしまっても、セバスチャンは立ち直れない。
そんな時、恋した二人目は外科医の妻、テリーサ。彼女は純粋で愛らしいのだけど、その無邪気さゆえに青年公爵の愛人になることを拒み、去ってしまう。
自棄になったセバスチャンは、デカダンスのヒッピー娘と恋人になるも、階級が違いすぎてあっさりふられてしまうという、救いのない恋愛です。

でもそれが作品の味なのでしょう。若さ、健康、美しさ、財産、身分……と、全て完璧に持っているのに、一番欲しいものが手に入らないセバスチャンのもどかしさが、どこか耽美的。
貴族社会の息苦しさを抜け出すよう、手を差し伸べた冒険家の姿が、時代の流れを象徴していました。

話もだけど、とにかくよかったのが、貴族社会の描写! 当時、売りだした時もそれが狙いだったようで、これでもか、と貴族たちだけでなく、お屋敷で働く使用人たちのことも人間臭く書かれています。
面白いことに、すべてにモデルとなる人物がいるそうでして、フィクションだけど現実に近い英国の生活をたっぷりと堪能できます。

訳文がすごくよくて、とっても読みやすいのもおすすめポイントです。
エドワーディアンな貴族社会に興味があれば、イチオシの作品。
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2013年10月13日

大聖堂―果てしなき世界 上中下巻

479734623X大聖堂―果てしなき世界 (上) (ソフトバンク文庫)
ケン・フォレット Ken Follet 戸田 裕之
ソフトバンククリエイティブ 2009-03-17

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いつか、イングランドでいちばん高い建物を建てる――大きな夢を抱く建築職人のマーティンは、その才能に嫉妬した元親方の策略によって破門され、細々と生計を立てていた。一方、彼の恋人で富裕な羊毛商人の娘カリスは衰退する羊毛市を救うため、老朽化した橋の修復計画に奔走する。
そんな折り、町の橋が崩壊して多数の死者が!
全世界で1500万部のベストセラーとなった『大聖堂』から18年、世界中をふたたび熱狂させた続編が登場。

大聖堂の続編。これも分厚い3巻構成にもかかわらず、面白くてページ数が気にならないほどでした。前作に登場した主要人物の子孫が活躍する物語です。
二百年後のキングズブリッジは前作とは打って変わって、修道院が腐敗しており、ひたすら権力闘争です。そしてもっとも違うのは、女子修道院もあること。その存在が今作の大きな鍵になり、主人公のカリスの運命が大きく揺さぶられます。

登場する人物たち、前作同様、善悪が分かれており、悪人は生まれつきそうで、善人もそう。そこが作者のポリシーなんでしょうが、前作ほど悪人の悪は絶対ではなく、いくらか親しみをもてるように書かれているのが大きな違いです。そのぶん、小悪者がたくさん登場して、意地悪な部分を分担しているようにも読めました。ありえないほどの悪じゃないのが、リアルさを増しています。

そのなかでもっともわかりやすい悪人が、奸計をつかって修道院長になったゴドウィン。保守的で常に教会は人々の上に立つものだと信じており、主人公のカリスとマーティンは苦しめられます。その彼とカリスが従兄妹同士という設定が、前作のトム親子のようだとも思いましたが。
そしてもうひとりの悪人が、マーティンの弟、ラルフ。同じように育った兄弟でも、正反対の人物が織りなすドラマが残酷であり、ドラマチックでもあります。

主要人物のなかで、一番よかったのが、貧しい農民以下のグウェンダ。彼女は父親にスリをさせられ、成長したら牛の代金として売られ、そして奴隷なる寸前で無法者から逃げ出します。とにかく、彼女は逆境に強い。
無事に村にもどると、努力と根性で意中の少年、ウルフリックと結婚。
しかし、ラルフが領主になってしまったことで、さらに過酷な人生が……。

そんな物語が、後半をすぎると、一転します。ペストの大流行です。
中世のヨーロッパで猛威を振るい、人口の半数が死んでしまいます。その感染力はおそるべきもので、ゴドウィンはじめ、悪役連中がバタバタと急死する設定にびっくり。これからどうなるんだ、という思いとは裏腹に、これでもか、と人物が死んでしまうのが容赦無いです。それだけペストは怖い病だったのでしょう。

中世という、迷信深い時代において、患者たちを手当してきたカリスの先見の明が発揮される、下巻は読んでいて爽快でした。女性の強さと賢さを書くのがうまい作家さんです。ほかの作品もそう。

とても面白かったですが、唯一の不満は、前作のほうがもっと面白かったこと。
だけど独立した物語なんで、前作を知らなくても楽しめるのでとってもおすすめです。
タグ:★★★
posted by 夏 at 23:31 | TrackBack(0) | 西洋史(古典・小説) | 更新情報をチェックする

2013年08月11日

ボートの三人男

4122053013ボートの三人男 (中公文庫)
ジェローム・K. ジェローム 丸谷 才一
中央公論新社 2010-03-25
【送料無料】楽天ブックス
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気鬱にとりつかれた三人の紳士が犬をお供に、テムズ河をボートで漕ぎだした。歴史を秘めた町や村、城や森をたどり、愉快で滑稽、皮肉で珍妙な河の旅が続く。数々のオマージュ作品を生み、いまだ世界で愛読されている英国ユーモア小説の古典。

ヴィクトリア朝に書かれたユーモア小説。現代でも通用するコミカルさがあって笑えました。
ただ古典ということもあり、文章が仰々しいのとコメディ以外の部分も描写がかなり割かれているため、くどいと感じるかもしれません。もともと、旅行案内用に書かれる予定だったそうで、イギリスの歴史や景観が美文で書かれています。歴代王朝の小話なんかもあったりして、中世の歴史好きにもおすすめです。

三人の男と一匹の犬が真面目にユーモアを誘っています。旅のアクシデントに対処するやり方がどれも馬鹿げているせいか、爆笑というより失笑する感じ。
いくつか面白かったエピソード。

パイナップルの缶詰を食べようとするも、缶切りを忘れてしまい、岸辺で格闘する話。叩いても潰しても投げても形が変わっても、結局開かないとう徒労ぶるに笑えます。英国紳士らしく、あっさりあきらめたあとは、何ごともなかったかのように、ふるまうのが滑稽。イギリスらしい抑揚のきいたユーモアたっぷりでした。

スチーム・ランチ(蒸気で動く遊覧ボート)とぶつかりそうになって、思いっきり竿を相手の舟についたら、ひっくり返る彼ら。観光客用に写真を撮影していたものだから、ちょうどひっくり返った脚も写ってしまい、景色が台無し。弁償しろと苦情。ボートから脚が逆さに突き出した描写が笑えます。

ある村のパブに寄ったら、見事な鱒の剥製が。不思議なことにどの村人も「俺が釣った」と延々と自慢(笑)ネタがわかった彼らは、パブの主人に真相をきくも、さらなる真相が!!!

ほかにも犬のモンモランシーの可愛い顔した傍若ぶりや、湿っぽいボートの窮屈さや(気鬱を癒すためにきているはずなのにトラブルばっかりw)、周囲の人間たちのユーモアさが笑いを誘います。下品なジョークもないので、上質なユーモア古典を読みたいときにおすすめです。

英国紳士のすごいところはどんなトラブルに遭遇しても、涼しい顔をして「何ごとも経験だ」とか「あれは刺激に満ちて楽しかった」とか、言いきること。たま~にだれかが取り乱しても、ほかのふたりがしら~と見守るだけなのも笑えます。
タグ:★★★
posted by 夏 at 18:20 | TrackBack(0) | 西洋史(古典・小説) | 更新情報をチェックする