2013年06月29日

マンチュリアン・リポート

4062775042マンチュリアン・リポート (講談社文庫)
浅田 次郎
講談社 2013-04-12
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昭和3年6月4日未明、張作霖を乗せた列車が爆破された。関東軍の暴挙に激怒した昭和天皇の密命を受けて、若き軍人が綴った「満洲報告書」で明かされる「真相」とは?該博な知識と丹念な取材に裏打ちされた浅田史観で、闇に葬られた昭和史最大のミステリーを追う。絶好調『蒼穹の昴』シリーズ第4部開幕。

シリーズ最終章(かと思ったけど、解説には次回作も期待とあった)?。中原の虹で語られなかった、張作霖のその後――有名な列車爆破事件が軸となってレポート形式で語られています。
語り手は不敬罪で牢獄に入っていた若き中尉、志津。彼はなんと昭和天皇の密命で、満州へと旅立ち、事件の真相を探るという出だしでした。

初めはすごくワクワクしたけど、いきなり蒸気機関車「公爵」が語り出して、びっくり。西太后を一度だけ乗せた英国製御料車の口調が貴族を意識していて笑えました。シリアスなはずなのに、列車というギャップに好みがわかれるかもしれません。アイデアとしてはいいけど、物が語るのが個人的に興ざめです。SFならわかるんですけどね、時代物だから違和感ありすぎて……。

あとレポートで爆破事件の真相が……と期待してたんですが、結論が知られているとおり関東軍の策謀そのまんまなのもちょっと残念でした。意外な展開を期待しすぎてしまった。
そのぶん、シリーズの必須アイテムになっている龍玉の存在が、うまく史実と絡み合わせているのが素晴らしいです。ちゃんと辻褄があってる。そして、その龍玉の新たな持ち主である張学良の人生が語られるのかもしれないですね。続編があれば。

ファンの方には申しわけないですけど、続編は期待していません。中華民国から共産国へと変貌していき、そして文化大革命に現代……と続いていくのでしょうが、その中国をよい意味で中華と呼ぶには、問題多すぎな大国です。龍玉を抱いたものが英雄というのなら、文化大革命の扱いはどうなるんでしょうかね?
当時の覇者を無理やり英雄扱いする描写はあまり読みたくないです。
あと、なぜ作者が張作霖にあれだけ惚れ込んでいるのかも、伝わってこないのもあります。馬賊を英雄扱いするお国柄に違和感を拭えないから。

最終章であの予言者、サマンが出てきます。乾隆帝の御代から生きているというお婆が、まさかラストで活躍するとは予想外でした。年齢はとうに100歳超えているはずだし、いったい何者なんだろうか(笑)
posted by 夏 at 20:59 | TrackBack(0) | 東洋史・他歴史 | 更新情報をチェックする

2013年04月27日

西太后―大清帝国最後の光芒

4121018125西太后―大清帝国最後の光芒 (中公新書)
加藤 徹
中央公論新社 2005-09
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内憂外患にあえぐ落日の清朝にあって、ひときわ強い輝きを放った一代の女傑、西太后。わが子同治帝、甥の光緒帝の「帝母」として国政を左右し、死に際してなお、幼い溥儀を皇太子に指名した。その治世は半世紀もの長きにわたる。中級官僚の家に生まれ、十八歳で後宮に入った娘は、いかにしてカリスマ的支配を確立するに至ったか。男性権力者とは異なる、彼女の野望の本質とは何か。「稀代の悪女」のイメージを覆す力作評伝。

これはとっても面白かった。そして内容が濃いのにすごく読みやすかったです。近代中国を扱うとかなり複雑なので、どうしても難しくなってしまうんですが、これはわかりにくいだろうポイントを噛み砕いて書かれているためかもしれません。

稀代の悪女として知られる、西太后。なぜ彼女が悪女として歴史に残ったのかは、本書を読めば理解できます。
たしかに贅沢三昧したり、気分屋で息子や甥の妻を間接的とはいえ、死に追いやったりと、悪女そのもののふるまいも多いのですが、それぞれ西太后なりの考えがあったためです。
食事はいつも百品以上用意させ、そのうちの数皿しか手を付けないのも、官女や宦官におこぼれにあずからせるため。もともとそれを勘定して歴代の皇帝たちは晩餐を作らせていたのです。そのおこぼれにあずかれた恩(というか利益)によって、下々の者たちは皇帝や皇后に仕えたのでした。

庭園や離宮を造園させたのも、工事によって莫大な銀を市場へ流通させることができたから。当然、工事にたずさわる人々にも、その利益が懐に入ります。
西太后が豪勢な暮らしをすることで、下々の民たちは清朝に従うのが中国らしいというか。あの人はまだまだお金持ちだから、ついていけばおこぼれにあずかれる――という価値観。
だからそのおこぼれがなくなったとたん、家臣だけでなく民衆も清朝にそっぽを向いて、辛亥革命が起こったのです。

息子の同治帝や甥の光緒帝の后妃たちを自殺へ追いやったのも、彼女らがいることで宮廷内の政治が分裂するからです。皇帝の妻という立場はとても強く、未亡人になった后妃を盛り立てて政治を動かそうとする野心家を生み出さなため。
無用な争いを避けることで、権力を握りしめた西太后ですが、そのじつ、政治からは手を引きたかったのが意外。決して野心家だったためではなく、自分が政治をしないと国が傾いてしまうという危機感からそうさせたようです。それだけ息子が頼りなかったし、幼帝だと政治ができないから。

しかし成長した甥の光緒帝はいいのか悪いのか、伯母である西太后の血を引いて聡明だったため、やがて対立してしまいます。そして、維新派の漢人に炊きつけられてしまい、国の刷新を決行――しようと勅令を発布するも、役人たちは西太后につくか光緒帝につくかを秤にかけ、静観。皇帝の命令だというのに、効力無し(苦笑) 義心よりも利益優先というのが中国らしいです。
ついに業を煮やした光緒帝は、西太后を暗殺しようとするのですが、袁世凱の裏切りによって失敗。そして幽閉され、病死してしまいます。このあたりのエピソードは、蒼穹の昴や続編の中原の虹にあった記憶が。小説だとふたりは本当は仲が良いのに、清朝存続のためにあえて幽閉した、とあったけど、そのあたりの人情描写は創作だったようです。

それでも西太后のひととなりは、本書からの影響が多大だったのでしょう。これを読むと、好き嫌いが激しくておしゃれ大好きだけど、かなりの切れ者のおばちゃん、というイメージですから。案外、中味は女性的。皇后としての地位にこだわる部分もそうです。
だからこそ、社会情勢というか世界の情勢に疎い部分もあって、西洋化を政治権力に利用できたのかもしれません。西洋化を推進したい一派と、保守化を望む(ゆっくり西洋化したい)派を戦わせた晩年の政治手腕は見事です。

まず維新派を味方につけ、保守派を失脚。やがて維新派の政治がうまくいかず、民衆の反感を買ったところで保守派が、再登場。維新派を捕らえて処刑させ、民衆の圧倒的指示を得て、カリスマを得る。それが西太后のやり方でした。
臣下を失脚させるのも、権力を集中させないため。そしてべつの臣下を失脚させたら、以前、失脚させた臣下をまた政治に参加させるのが中国らしい。現代でも民衆から不評の大臣を失脚させて、そのあとまた平然と再登用させるのがその名残。つまりは権力者の支持率をアップさせ、民衆のガス抜きもできる政治手法です。

その他にも皇帝が嫁を選ぶ選考女の制度や、東太后のしたたかさ、同治帝の弟である賢い恭親王の存在(彼が皇帝に選ばれていたら、西太后はただの貴妃で生涯を終えていたかも)、妹が嫁いだ醇親王家への愛憎、光緒帝と伊藤博文の謁見をこっそり御簾から聞いていた西太后のエピソード、などなど。

興味深く面白い内容がこれでもか、とページに詰まっていました。それほどの良書が、新書で手軽に読めるのもすばらしいです。とくに蒼穹の昴を読んだ方におすすめできますし、清朝に興味がなくても文章が平易なので楽しめると思います。

西太后の美しさ(アンチエイジング)の秘訣【悪女というよりおばちゃん】にて古写真や日用品をまとめています。
ラベル:★★★
posted by 夏 at 21:37 | TrackBack(0) | 東洋史・他歴史 | 更新情報をチェックする

2013年02月23日

阿片王―満州の夜と霧

4101316384阿片王―満州の夜と霧 (新潮文庫)
佐野 眞一
新潮社 2008-07-29
中古本

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アヘンを制するものは支那を制す。中国人民の尊厳と国力を奪うアヘン密売の総元締めとして、満州における莫大な闇利権を一手に差配し、関東軍から国民党までの信を得た怪傑・里見甫。時代の狂気そのままの暴走を重ね、「阿片王」の名をほしいままにしたその生涯を克明に掘り起こし、「王道楽土」の最深部にうごめく闇紳士たちの欲望劇のなかに描き出す構想十年、著者の最高傑作!

ルポタージュ形式のノンフィクション。冒頭に登場する怪人物、伊達老人の登場からなんだかおどろおどろしい雰囲気がたっぷり。フィクション?と思わせるほど、個性的な人物ばかり登場します。興味をひきつけるような書き方をされているためでしょう。

やがて里見甫なる民間特務機関を作り上げた男を、満州国の歴史とともに追っていくのですが、作り話みたいな波瀾万丈な当時のひとびとの生き方に興味を惹きつけられます。遺児基金の芳名帳には、とても有名な人物も名を連ねており、満州国の闇の深さをうかがい知れます。
特務機関はおもに戦争資金を調達するためにあり、そのほとんどが阿片取引で莫大な利益を関東軍が得ることでした。当然、里見に目をつけ、特務を命じたのはかの甘粕正彦です。彼は知ってたけど、里見なる阿片王の存在は、本書を読むまでまったく知りませんでした。

あと、里見の片腕だったであろう男装の麗人の存在も、ミステリアスさを醸し出しています。梅村淳という女紳士の義母、うたも謎めいた傑女で、後半はそのふたりの生い立ちや親子になったいきさつを取材します。彼女らこそ、里見の闇を解明できる鍵となる人物だと。
しかし残念なことに、結局、彼らは秘密を墓に持って行ってしまったことで、ラストは尻切れトンボのようにぼんやり。まさしくタイトルのとおり、満州の霧と闇にまぎれてしまったようです。せめてあと五年早く、取材を始めていたら、核心に迫った真実を掘りおこせたかもしれないのにな、という残念な読後感でした。
ただ、そのぶん、歴史作家のような妄想語り(笑)がほとんどなかったのが誠実でよかったです。

主題よりも、本書は満州国が作られたころの中国東北部と日本の時代がいろいろ書かれているのが素晴らしかったです。当時の上海の魔窟ぶりや、満州の湯崗師(タンカンツ)温泉のこともあります。とくに湯崗師には、かの宣統帝溥儀が天津から脱出したさい、関東軍にあてがわれた一時の隠れ家でもありました。驚いたのは、梅村母子と溥儀がそんなところでつながっていたのもだけど、わが半生で数行かかれてたあの旅館が、それだったとは。本書との意外なつながりにわくわくしました。
偶然とはいえ、読んでいた書物と書物の内容がつながっていたのに遭遇すると愉しいですね。読書の醍醐味に触れることのできた一瞬でした(^o^)
posted by 夏 at 14:01 | TrackBack(0) | 東洋史・他歴史 | 更新情報をチェックする

2012年12月22日

科挙―中国の試験地獄

4122041708科挙―中国の試験地獄 (中公文庫BIBLIO)
宮崎 市定
中央公論新社 2003-02-25
楽天ブックス
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二万人を収容する南京の貢院に各地の秀才が官吏登用を夢みて集まってくる。老人も少なくない―。完備しきった制度の裏の悲しみと喜びを描きながら、凄惨な試験地獄を生み出す社会の本質をさぐる名著。

郷試等、蒼穹の昴1巻目を思い出しました。なかにはそのままのエピソード――命を救った隣房老人の答案用紙がもとで首席合格――も含まれていて、かなり本書の影響もあったようです。

後日、感想を写真付きでわかりやすくまとめました。参考にどうぞ。
科挙~王朝中国時代の超エリート官僚【試験は無間地獄】
ラベル:★★★
posted by 夏 at 17:59 | TrackBack(0) | 東洋史・他歴史 | 更新情報をチェックする
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